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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)101号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由(一)について判断する。

1(一) 第一引用例に示されたジヤツキ装置が本件発明の「圧力流体接手を備え該接手から圧力流体の送給を受けることにより膨張可能な容器」に該当することは、被告の明らかに争わないところである。そして、成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例の米国特許第二二二六二〇一号明細書には、右ジヤツキ装置及びその使用方法の発明が記載され、この「発明の主目的はきわめて小型ながら特に土木工学に必要な非常に高い作動力を発揮できかつ低コストで製造できる簡単な装置を提供することにある。」(甲第三号証訳文一丁表一二、一三行)ことが明らかにされ、右ジヤツキ装置の構成とこれを用いた応用例が開示されていることが認められる。

右応用例の一つについて第一引用例には、「第一三図にコンクリートすなわち建造物用ブロツク2(原文には102とあるが同図には2とあるので、図面に一致させて2とする。以下同じ。)の直線状の鉄筋の一グループ1を引張ることにジヤツキ装置が適用してある。」(甲第三号証訳文一一丁表一二行ないし同丁裏一行)、「第一三図においてこのジヤツキ装置が三つV1V2V3で示してある。これらの間にはコンクリート又はその他の適切な素材でできたくさび11が介在させてある。これらのジヤツキ装置を所定位置へ取付け後引張られる鉄筋の上端部13が固定されるべき主体部コンクリート12が上部のジヤツキ装置の上に注入される。主体部コンクリート12が凝固硬化するのと同時にすべてのジヤツキ装置を膨張させると主体部12がブロツク2から離れるように移動して鉄筋が引張られる。」(同一一丁裏九行ないし一二丁表三行)との記載がある。この記載と右第一三図(別紙図面)とを検討すれば、第一引用例には、コンクリート構造物の構築時に予め膨張可能な容器であるジヤツキ装置を埋設しておき、コンクリートが硬化した後ジヤツキ装置を膨張させて、コンクリートブロツクを引き離し鉄筋に引張力を与えるようにする方法が開示されていることが認められる。

(二) また、他の応用例として、第一引用例には、原告が請求の原因四1(一)において引用する右ジヤツキ装置を岩の破壊に用いる場合についての記載(甲第三号証訳文一六丁表一二行ないし同丁裏二行)がある。この記載によれば、審決が認定するとおり、第一引用例には、大きな岩のかたまりを破壊したり移動するために、膨張可能な容器であるジヤツキ装置を岩に準備した孔又は溝に固定して、これに高圧を加えることにより爆発物の代わりとして用いることができるとの方法が開示されていることが認められる。

(三) 右(一)の方法と本件発明を対比すると、両者はともに、「圧力流体接手を備え該接手から圧力流体の送給を受けることにより膨張可能な容器をコンクリート構造物中にその構築時に予め埋設しておき、」「該接手を介して圧力流体を送給し該容器を膨張させてコンクリート構造物を内部から押拡げ」る点において、一致するが、第一引用例の右応用例は、コンクリートブロツクを引き離し鉄筋に引張力を与えるために膨張容器であるジヤツキ装置を使用する方法であるのに対し、本件発明は膨張容器をコンクリート構造物の破壊のために使用する方法である点で相違する。

しかし、第一引用例には、右(二)に認定したとおり、応用例として、対象とする物の内部に膨張可能な容器を設置し、これに圧力流体を送給してこの物を内部から押拡げ破壊する解体工法が示されている。右(二)の応用例において破壊の対象として示されているのは天然の岩であり、本件発明のコンクリート構造物とは異なるが、岩にせよコンクリート構造物にせよ従来から破壊の必要のある対象物とされていたものであることは明らかである。また、右(一)の応用例と(二)の応用例において、ジヤツキ装置はともに物を内部から押拡げる作動力を発揮するものとして示されており、本件発明における膨張可能な容器とこの点においても異なるところはないと認められる。

右事実と前叙のとおり第一引用例が本件発明の「圧力流体接手を備え該接手から圧力流体の送給を受けることにより膨張可能な容器」に該当するジヤツキ装置及びその使用方法の発明についての特許明細書であり、右ジヤツキ装置が「土木工学に必要な非常に高い作動力を発揮でき」るものであつて、右(一)、(二)の応用例もこの作動力の応用例として示されていることを考慮すれば、第一引用例には本件発明の技術思想が十分に示唆されているというべきであり、右(一)、(二)の応用例を組合せて本件発明の構成に想到することは、当業者にとつて容易であると認めざるを得ない。被告の反論は、右に述べたところからして採用することができない。

2 前叙の審決の理由の要点によれば、審決は、第一引用例の記載内容を「岩に孔や溝を形成して膨張可能な容器を埋設した後圧力流体を供給し、膨張させて岩を破壊させること」と認定した上、同引用例には本件発明の必須の要件である膨張可能な容器をコンクリート構造物中にその構築時に予め埋設しておく構成は記載されていないばかりでなくこれを示唆する記載もない旨認定している。しかし、以上述べたところによれば、この認定は第一引用例の前記1(一)の応用例の記載を看過し、同引用例の記載内容について誤つた認定をしたものであることが明らかである。そして、この認定の誤りが審決の結論に影響を及ぼすべきこともまた明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく、審決は違法として取消を免れない。

三 よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容する。

〔編註〕 本件における特許請求の範囲は左のとおりである。

圧力流体接手を備え該接手から圧力流体の送給を受けることにより膨張可能な容器をコンクリート構造物中にその構築時に予め埋設しておき、解体時に該接手を介して圧力流体を送給し該容器を膨張させてコンクリート構造物を内部から押拡げ破壊することを特徴とするコンクリート構造物の解体工法。

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